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2011年9月21日 (水)

「言葉を失った」話(下)

           (つづきです)

  同僚の先生方から「先生自身どうしたいの?」「先生は彼に対して何も要求はないの?」と言われ、言葉を失った。今まで生徒に対して、何も問題を起こすな、という指導ばかりして、立派な人間になり、社会に貢献出来る人間になって欲しいという要求はしてこなかった。

また、担任として「誰一人見捨てず、一人も欠けることなく卒業させたい」という思いが強くなった。」そこで思い切って2ヶ月間本人が希望する現場仕事に行かせることを決意し、「本気で頑張ってこい。いけると思ったらその仕事を一生がんばり。無理やったらいつでも戻ってきていいんやから」と彼を見送った。現場で様々な年の人たちと話をする中で、社会の中で自分を見つめ直してきた彼は、少しずつ変わり始めた。「仕事どうや?」と声をかければ、ぽつりぽつりとでも自分の気持ちを語り出すようになっていた。このことで、何をするにも「自分の思いの押しつけ」ではなく「見通しを持ったきっかけ作り」をして、成長を待つことが生徒のためになるということに気づかされた。「私に何が出来るか」ではなく「君たちに何が出来るか」である。

彼は2ヶ月後、電話でこう語った。「俺、明日から学校行く。卒業するから」彼は人間関係で悩み傷つき、挫折を味わいながらも、同時に人とつながりあえる喜びを感じ、一歩ずつ前に進んでいる。失敗が問題なのではなく、出来ない自分を過剰に責め続け、殻にこもることで、自分の世界を狭めてきてしまったのである。「やり直しのきく自分づくり」に、ほかでもない自分自身がしっかり向き合い、それを得たと実感できたとき、見違えるように積極的になり、外に向かう力を得る。「安心して失敗でき、何度でもやり直しができる空間づくり」が大切であることに私自身気づかされた。失敗できない、失敗したら終わりではなく、多くの葛藤や挫折を経たことで、それ以前の自分を相対化し、乗り越える力をつけられる。仲間とクラスでの行事づくりや授業での学び、クラブ活動を通して、学校が安心できる空間となり、自分の「居場所」となるのだ。その空間の中で、バラバラである人間がつながり合う具体的な場面を作ることで、喜びも悲しみも苦しみも共有し合い、お互いを高め合っていく。そのような空間や状況をこれからも追求していきたい。

                            (S(私立高校)。おわり)

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