おすすめ情報

本の紹介

« 【立ち読み】「早蕨」6月号⑥ 6月例会「ぴらっと1枚実践話会」報告② 行事でいかに学ぶのか | トップページ | それぞれのつくば大会 »

2014年8月13日 (水)

【立ち読み】「早蕨」6月号⑦ イケ麺ず  旅立ちの日に食す~人生の節目に「ぜにや」あり

 一人息子が、この春、京都で一人暮らしを始めた。彼は子どもの頃から身体が弱く、卵と小麦粉の食物アレルギー・アトピー性皮膚炎で、給食の献立も別メニュー。ちょっとした風邪引きでも肺炎になってしまう虚弱体質で、眠れぬ夜は一度や二度ではなかった…。

 高校3年生の春に、ようやく「小麦粉解禁」となった。学校帰りのたこ焼きも、メロンパンも、パスタもラーメンも、17歳で初めて口にした。「すごい楽しみにしてたんやけど、意外と大したことないなぁ」が、感想だった。そんな彼に「これはうまい」という麺類を食べさせてやりたい…と、親父が思案したあげく選んだのが「堺市中区土塔」にある「ぜにや」だ。二人きりで訪れたのは下宿も決まった3月末のことだった。

 
 商大堺高校の最寄り駅深井駅周辺にはまずまずのうどん屋が数軒あるが、その中で群を抜いているのが「ぜにや」だ。土塔町はこのエリアの旧村で道幅が狭く、曲がりくねっている上に、田畑のミニ開発で住宅が密集している。路線バスが走る「表通り」から一本入った住宅地の一角に「ぜにや」はある。この店自体が仕舞た屋風(というよりまさに普通の住宅)で、町に溶け込んでいるため発見は容易ではない。ただ、11:00の開店を待ちかねた常連客たちが早くから長蛇の列をなしているので、その店(家?)がかろうじて「ぜにや」だとわかるという状況だ。

 この店を訪れる以上、行列を厭うてはならない。ベンチ等も少なく、なかなかはけない行列にしびれを切らすこと数十分。ようやく店内に通された。ここは迷わずに「おろし天ぶっかけ」一本で。待つことさらに10数分、大きなどんぶりが運ばれてきた。エビ天、野菜天、半熟卵天などがあふれんばかりに盛りつけられている。慎重に天ぷらをより分け、箸を沈めていくと、もっちりとした弾力をもつ美しい乳白色の麺に行き当たる。

 ただならぬ気配に息子も緊張を高めている。親父の動作をまねて、麺を箸でつまみ上げ口に運び、ズズッ…。「うわっ」あとは言葉にならなか 親子で肩を並べ、至高の一杯をすすりあげる時間は、ほんの数分。でも、これから一人の市民として生きていく彼の人生に、とっておきのうどんとともに寄り添えた時間は芳醇そのものだった。「うまかったな」「うん」言葉少なに感想を述べあい、店を去る。この先、彼と二人でどれほどの時間を共有できるかわからない。それでも、息子の旅立ちに「ぜにや」を食べた日のことを忘れることはない。「ぜにや」は、そんな人生の節目にこそ食してみたいうどん屋である。

(藤田隆介。「早蕨」6月号。購読申し込みは、左記、「メール送信」へ)

« 【立ち読み】「早蕨」6月号⑥ 6月例会「ぴらっと1枚実践話会」報告② 行事でいかに学ぶのか | トップページ | それぞれのつくば大会 »

早蕨(さわらび)」カテゴリの記事